カーボンニュートラルニュース vol.41

(2025.07.24)


脱炭素社会への有力な切り札
バイオエタノールの現在地と未来図

コロンブス2507
開始直後から満席となった会場

 月刊『コロンブス』6月号でも取り上げた通り、6月19日、イイノホール(東京都千代田区)で「自動車用バイオエタノールの未来―2040年度E20導入を目指して―」をテーマとしたカンファレンスが開催された。主催はアメリカ穀物協会、(一財)エネルギー総合工学研究所の共催。
 カーボンニュートラル社会の実現に向け、日本では近年、トウモロコシやサトウキビを微生物によって発酵させて得る「バイオエタノール」が注目を集めている。バイオエタノールはガソリン自動車など既存の内燃機関車に対応可能で、早期の実用化が見込まれる現実的な選択肢といえる。
 カンファレンス当日は政府や研究機関のほか、実際にE3、E7(Eはエタノール、数字は混合比率を表す。E3はガソリンにエタノールを3㌫混ぜた燃料)の販売を開始した企業などが登壇して講演、意見交換を行った。来場者も大手商社や自動車関連産業など多彩な顔ぶれで、約160名が参加した。
 とくに注目を集めたのは経済産業省の東谷課長代理による講演だ。国では2030年代前半に商用化を目指すe-fuel(CO₂と水素を合成して製造した合成燃料)と並行して、より導入可能性の高いバイオエタノールの拡大に向けたアクションプランを2024年に策定したが、「実際の導入にあたっては車両対応やインフラ整備、品質管理など複数のハードルが存在し、とくにエタノール混合による蒸気圧の上昇や水分混入への対応といった技術課題には、慎重な設計と設備投資が求められる」とした。これらを踏まえ、「政府は2028年度に一部地域での先行導入を予定しており、課題の洗い出しと制度整備を経て2030年度以降の本格展開を目指す構えだ」という。

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講演後の質疑応答で「ほぼ輸入に頼っている原料をアメリカやブラジルが日本に販売する動機として、国内の炭素クレジット制度と比較して優位性をどう設計するか。インセンティブの構想はあるか」という質問に対して、「現時点では両国ともに供給余力はあると見ているが、将来的に取り合いが生じる可能性も否定できない。その際は、供給国へのインセンティブ設計や資源外交(官労使連携)による安定供給確保が重要であると考えている」と答えた資源エネルギー庁資源・燃料供給基盤整備課の東谷佳織課長補佐
(永井岳彦課長の代演として登壇)
 また、このような国の方針に呼応し、民間でも先進的な取り組みがはじまっている。愛知県名古屋市に本社のある中川物産㈱では、2000年代初頭から環境対応型燃料の導入にいちはやく着手してきた。その取り組みについて「E3ガソリン・E7ガソリンの販売実績及びE10・E20導入の展望」と題して講演。国内産エタノール、とくに廃木材など非食料系バイオマスを原料とする製品の活用も視野に入れており、より混合率の高いE10やE20へのステップアップが期待されていると話した。すでにボートレース業界での導入実績もあることから、将来の供給安定に向けたサプライチェーン投資も視野に入れつつ、今後は「安定供給・環境配慮・価格優位性」の3本柱で、引きつづき積極的に展開していく方針だ、と締めくくった。

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講演のなかで「バイオエタノールの実用化には規制や制度設計、そして消費者の理解促進というソフト面の整備も欠かせない。価格面では、バイオエタノール混合ガソリンに対する税制優遇措置の継続がカギを握る」と今後の課題を提起した中川物産㈱の河村昌洋部長