第30回 水素エネルギー研究会

(月刊『コロンブス』2026年4号掲載)


モノづくり産業集積No.1の愛知県で
水素エネルギー研究会のセミナーを開催‼

2月19日(木)、水素エネルギー研究会は商工組合中央金庫(商工中金)ユース会とともに、愛知県の「ウインクあいち」 (愛知県産業労働センター・名古屋市)でセミナーを開催した。研究会最高顧問の入交昭一郎氏(元本田技研工業㈱副社長)や副会長の成田春樹氏(㈱ナリタテクノ代表取締役会長)が東海地方のモノづくり企業経営者たちに向けて講話を行ったほか、翌日には水素工業炉(低温用・高温用)による脱炭素燃料化に取り組む常滑窯業試験場(常滑市)を視察した。その模様をリポートしたい。


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当日の会場の様子

 まず挨拶のため壇上に立ったのは、水素エネルギー研究会会長の村越政雄氏(㈱ムラコシ精工会長・㈱ムラコシホールディングス代表取締役社長・東京都商工会連合会名誉会長)。氏は研究会の発足の経緯や活動内容に触れつつ、日本のカーボンニュートラル達成に向けて水素サプライチェーンの構築が必要不可欠であることをあらためて強調した。そして会場に集まった商工中金のユース会東海地域のモノづくり企業の若手経営者ら35名に向けて「われわれ、日本の産業を支える中小モノづくり企業がいかにして水素関連ビジ ネスに携わり、水素社会とつながるか、そうした未来を見据えた勉強の場、それがこの水素エネルギー研究会。ぜひご参加ください」と力強く呼び掛けた。

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水素エネルギー研究会会長の村越政雄氏(㈱ムラコシ精工会長・㈱ムラコシホールディングス代表取締役社長・東京都商工会連合会名誉会長)

 ついで、動画「アメリカ半導体最大手で世界一の巨大企業、エヌビディアのジェンスン・フアンCEOから特別メッセージ‼」を上映。この動画は昨年末、入交昭一郎氏宛てに届いたエヌビディアCEOのジェンスン・フアン氏による「感謝」のビデオメッセージをベースに、研究会事務局長の古川猛(本誌編集長)が入交氏へのインタビューを行い編集・制作したものだ(月刊『コロンブス』 2026年3月号75頁参照)。入交氏当人の口からはフアン氏との出会いやエヌビディア草創期のピンチに手を差し伸べたときのエピソード、そしてフアン氏の人柄やビジネスに対する姿勢などがタップリ語られ、会場一同、一語、一語に感動し動画に見入っていた。

日本主導のCN燃料生産体制確立に向けた入交昭一郎構想

  その後、入交氏が登壇し「日本の目指すべきカーボンニュートラル燃料の社会実装についての提案」と題して基調講演を行った。その内容を以下に紹介したい。
 入交氏はまず日本のエネルギーの現状と課題に言及し、「日本が化石燃料の輸入に年間約25兆円を投じており、その全量を海外に依存する現状は経済安全保障上の大きなリスクとなっている」と指摘。そして、国内の再生可能エネルギー拡充には地理的制約があることから「再エネで発電した海外の安価な電気でカーボンニュートラル燃料を製造するのがもっとも合理的」と話した。具体的には1㌔㍗アワーあたり2.5円で発電可能なサウジアラビアなどの国々と連携し、現地で水素からアンモニアやe-Fuelを製造、タンカーなどで日本まで運搬する。
 入交氏の試算によれば、約2兆円の設備投資でe-Fuelの現地製造コストは150円/㍑程度、日本での小売価格は250円程度での供給が可能になるとのこと。「これは既存のエンジン車やガソリンスタンドなどのインフラを維持したままカーボンニュートラルを推進し、〝日本主導のカーボンニュートラル燃料生産体制〞を確立する現実的な策であり、けっして夢物語ではない」と力を込めた。
 だが、この構想を打ち立ててから約4年、入交氏は関係各省庁の大臣や議員、役所などと交渉を重ねてきたが「なかなか動かない、国家プロジェクトとして具体化しない」のが現実だと嘆く。「民間企業だけではこの構想を実現するのは不可能であり、どうしても国のバックアップが必要。高市早苗首相は施政方針演説で『安定的かつ安価な水素供給チェーンの確立を国家戦略の中核に据える』と明言していたので、今後、あらたな国家プロジェクトが立ち上がってくることを期待したい」と講演を締めくくった。

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研究会最高顧問の入交昭一郎氏(元本田技研工業㈱副社長)

 愛知県瀬戸市の地場企業が県試験場に水素工業炉を納入入交氏につづいて登壇したのは、研究会副会長の成田春樹氏。氏は金属の熱処理やセラミックスを焼く工業炉の設計・施工を手掛ける㈱ナリタテクノ(愛知県瀬戸市)の代表取締役会長。昨年、同社は常滑市にある「あいち産業科学技術総合センター産業技術センター 常滑窯業試験場」にセラミックスを焼くための「水素工業炉」を落札し、納入した。成田氏は、この公設の試験場への導入は全国初だという水素工業炉について話した。

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研究会副会長の成田春樹氏(㈱ナリタテクノ代表取締役会長)

 それによれば「水素工業炉は脱炭素社会の実現に向けて欠かせないが、まだまだ技術的な課題も多い」とのこと。たとえば、水素は燃焼温度が非常に高いため、空気中の窒素と反応して窒素酸化物(NOⅹ)がたくさん出てしまう。「当社はこれを抑えるための技術を持っていることが高く評価され、プロジェクトの採択にいたった」という。
 また「水素脆化といって、水素分子が金属を脆くしてしまう性質もあり、こればかりは実際にトライしてみなければわからない部分が多々ある。こうした点については、試験場と協力しながら研究をすすめている」そうだ。

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水素エネルギー研究会メンバーの集合写真

常滑窯業試験場の水素工業炉を視察

 講演会の翌日、2月20日(金)には、研究会一同でナリタテクノが納品した水素工業炉を見学するためにあいち産業科学技術総合センター産業技術センター 常滑窯業試験場へ。
 まず、県経済産業局水素社会実装推進課の森 昭博氏は「製造品出荷額が47年連続で日本一、火力発電所や名古屋港という大きな物流拠点があり、貨物車の保有数も多い愛知県はCO2排出量が多く、全国(約10億㌧)の約6.4㌫に当たる約6630万㌧になっている」と説明があった。こうした背景があって、カーボンニュートラルに向けた県主導のさまざまなプロジェクトがすすめられてきた(月刊『コロンブス』 2026年2月号本コーナー参照)と。常滑窯業試験場(常滑市)での「水素を燃料とした工業炉」の導入もそのひとつ。「この4月から㈱ナリタテクノなどと協力して活用試験をすすめ、CO2を排出しない水素工業炉を普及していく」という。
 水素工業炉は主にセラミックス製品の焼成に使う高温炉(1000〜1600度)と、さまざまな金属材料の熱処理などに使う低温炉(200〜1000度)の2種類。研究会メンバーは実際にこれらの水素工業炉をジックリ見学し、化石燃料を使う工業炉との違いや安全性などについて熱心に現場担当者に質問していた。
 東海地方のモノづくり産業の脱CO2をはかる「水素工業炉」の視察、非常に充実した研究会活動となり、最高顧問の入交氏は「今後も全国を行脚し、同様の活動を展開していきたい」と話していた。

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 常滑窯業試験場での視察の様子。常滑窯業試験場に導入された2 種類の水素工業炉の建設費用は炉本体に付帯設備も含めて総額で1 億円程度。屋外に水素供給設備があり、7立方㍍のボンベが20 本束になった4基の「カードル」から水素を供給している。安全対策としては各所に水素検知器を配置するとともに、炉を使用する際はまず不活性ガス(窒素)で置換してから水素を導入することで安全性を担保。また、このシステムには地震を感知すると自動で供給を止めるシャットダウン機能も組み込まれているという