第29回 水素エネルギー研究会

(月刊『コロンブス』2026年3号掲載)


日本のEEZでドイツ発の
「浮体式洋上風力発電」によって
安価にグリーン水素を製造!!

カーボンニュートラルの達成に向けた一手として、欧州や中国を中心に導入がすすむ「洋上風力発電」。日本でも研究や実証が重ねられてはいるが、建設コストの高騰などで大手企業がプロジェクトから撤退する事例も。こうしたなか、ドイツ発の「浮体式洋上風力発電でグリーン水素を製造するシステム」を導入し、日本のエネルギー自給率向上を目指すプロジェクトがはじまった。プロジェクトを牽引する商社、㈱善衛商事代表の土肥研一氏にその構想について聞いた。


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2025年11月25・26日にアムステルダムで開催された欧州最大級のオフショアエネルギー展示会「Offshore Energy Exhibition & Conference2025 (OEEC 25)」にて、COG社のステージ。檀上のゲストは右側からCOG社代表取締役社長のイエンス・クルーゼ氏、造船技術で有名なハンブルク工科大学のモスタファ・アブデルマクスード教授、LOHCの技術と知見を持つエアランゲン・ニユルンベルク・フリードリッヒ・アレクサンダー大学のアンドレアスボースマン博士 

 洋上風力には、海底に基礎を設けて風車を固定する「着床式」と、洋上に浮かべた構造物に風車を設置する「浮体式」がある。日本には遠浅の海域が少ないため、強風が吹く沖合にも設置できる浮体式の研究がすすめられてきたが、陸地からはなれると送電のための海底ケーブルの設置コストが膨らむうえ、昨今では原材料価格や燃料費、輸送費などの上昇でさらにハードルが上がっている。こうしたなか、ドイツのクルーゼ・オフショア社(COG社)が風力発電の電力をその場で水素エネルギーに転換する浮体式洋上風力発電システムを開発、これが日本にも光明をもたらすと期待されている。
 この浮体式洋上風力発電システムによる発電からエネルギー供給までの仕組みはこうだ。まず、海水を純水製造装置で脱塩処理した後、風力発電の電力で水を電気分解してグリーン水素を製造、その水素をLOHC/有機溶剤水素キャリアー(※)に反応させて液体の形で水素を貯蔵する。そして、定期的にタンカーでLOHCを回収して港に運ぶ。需要先は㾱熱を利用して水素を取り出す。取り出した後の液体はふたたび洋上のプラントへ送り返され、水素キャリアとして繰り返し再利用される。COG社は2023年9月から、ドイツ連邦経済エネルギー省の資金支援を受けてこのシステムのプロトタイプの科学的実証を実施、台風を含む極限状態でも安定に運用でき、耐久性と信頼性が確認されたという。

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 このシステムに「これなら送電用の海底ケーブルが不要なので、建設にかかる初期投資を大幅に削減できる」と目をつけたのが商社の善衛商事(東京・世田谷)代表の土肥研一氏。さっそくCOG社と提携し、日本の企業と共同で欧州での実証試験に参画して両国における風力水素製造プラントの商業運転を目指すこととなった。「日本海のEEZ(排他的経済水域)内で15㍋㍗級のプラントを100基以上、1㌔㍍四方に1基の間隔で設置する計画」を構想し、1基当たりの設置コストは約100億円を見込んでいるという。「関係者がシッカリと足並みを揃えて取り組めば、2030年半ばまでに日本で浮体式グリーン水素ファームの稼働を開始できる」と土肥氏。「仮に2兆円投資して200基設置したとしてもグリーン水素の年間生産量は約28万㌧、国が掲げる『2050年に毎年2000万㌧』の目標には遠く及ばない。とにかく取り組みを加速させ、このシステムをモジュール化して全国の適地で大量生産していく体制を整えるべき」と力を込める。

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COG日本代表、善衛商事代表の土肥研一氏

 また、日本のエネルギー自給率向上のために「関連設備や設備の国産化」も重要だ。日本では再生可能エネルギーといえば太陽光発電が主流だが、その関連設備の大部分はスケールメリットを生かした生産体制を持つ中国勢が圧倒的シェアを占めており、国内メーカーでは太刀打ちできない状況となってしまっている。「浮体式グリーン水素ファームに関しては、太陽光発電のように装置や設備を輸入に頼ることなく、政府と大手企業が国家プロジェクトとして製造から運用まで一貫して取り組む必要がある」と土肥氏は話す。
 この点、日本にはトヨタやカナデビアが開発・製造を手掛ける水電解装置、千代田化工の脱水素触媒技術など「高度な技術や知見が蓄積されているため、優位性がある」という。
 浮体式グリーン水素ファームが全国各地の海に設置され、グリーン水素の大規模な生産・供給体制が整えば「日本が石油系エネルギーの輸入に費やしている年間20〜30兆円のコストを低減し、さらには急成長するアジア市場へのグリーン水素の主要供給国としての地位を確立することも可能だ」と土肥氏は未来を見据えている。
 COG社は2027年までに欧州EEZ内の北海沖での実証に取り組む方針を掲げており、総事業費5000万ユーロのうち約5割は欧州イノベーション基金またはドイツ政府の助成金で賄い、残り5割は産業界や投資家からの拠出金を当てるという。日本でも同様の官民連携体制で設備・装置の国産化とグリーン水素の供給網の確立を推進できるか、それが目下の課題だ。

※ 有機溶剤水素キャリアー/LOHC……水素を安全・効率的に貯蔵・輸送するための次世代エネルギー技術。水素をトルエン系などの液体有機化合物に化学的に結合させ、常温・常圧で安定した液体として貯蔵・輸送し、必要な場所で水素を取り出す。輸送は既存の石油インフラ(タンカーやタンクローリー)で行うことができる。