第26回 水素エネルギー研究会

(月刊『コロンブス』2025年12月号掲載)


Japan Mobility Show2025で初公開された
水素トラックや水素バイク、
そして中小企業が挑戦するマイクロFCVなど
最新の水素モビリティを紹介!!

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三菱ふそうがJapan Mobility Show2025で世界初の水素エンジントラック「H2IC」を公開。同社の大型トラック「スーパーグレート」をベース車両として採用、計58㌔㌘分の圧縮水素ガスを充填でき、航続可能距離(社内評価基準)は700㌔㍍

運送業など運輸部門のCO₂ 排出量は全体の2割を占めることから、カーボンフリーな次世代モビリティの普及が急務となっている。なかでも期待されているのがFCV(燃料電池車)や水素エンジン車などの普及だ。経済産業省では2030年までに乗用車換算で80万台程度(水素消費量8万㌧/ 年程度)のFCVの普及目標を掲げるが、その目標値に大きく届いていないのが実情で、水素ステーションなどのインフラ整備も遅れている(※1)。そうしたなか、大手メーカー各社は未来を見据えた研究開発に取り組んでおり、中小企業もマイクロモビリティ開発に取り組む事例が出てきている。
※1 政府目標は「2030年度までに1000基程度の整備」だが、一般社団法人次世代自動車振興センターによると、2025年11月5日現在、全国の水素ステーションの数は148カ所に留まっている。


世界初公開!
三菱ふそうの2つの水素トラック

 「トラックの新しい時代がはじまった。私たちと未来を造るお手伝いをしていただきたい」―10月29日、Japan Mobility Show2025のプレス発表のステージで、三菱ふそうトラック・バス㈱代表取締役社長・CEOのカール・デッペン氏は力強くそう語った。
 同社がこの場で世界初公開したのは、水素を燃料とする水素エンジンを搭載した大型トラック「H2IC」と、液体水素を燃料電池システムで電力に変換して走行するFCV(燃料電池車)大型トラック「H2FC」の2モデルだ。なぜ両方のモデルの開発を同時にすすめているのか、デッペンCEOは「カーボンニュートラルの達成」のためだとし、「水素の供給方法のトレンドやインフラの整備状況、水素価格の変動などさまざまな外的要因を踏まえ、複数の水素技術に取り組むことで顧客ニーズに柔軟に対応していく」と話した。
 まず、水素エンジントラック「H2IC」から紹介したい。このトラックは58㌔㌘分の圧縮水素ガスを充填でき、航続可能距離(社内評価基準)は700㌔㍍。従来のディーゼルエンジンの部品の約8割を流用できるため「自動車関連産業の維持につながるのはもちろん、水素技術への転換もスムーズにすすむ」という。
 一方、FCV大型トラックの「H2FC」は、ダイムラートラックとリンデ・エンジニアリングが共同開発したサブクール液体水素(sLH2)充填技術を国内ではじめて採用した。使 用する燃料は、これまで多くのFCVで採用されてきた圧縮水素ガスではなく、より高い燃料貯蔵密度を誇る液体水素。これによって最大1200㌔㍍の航続距離を実現し、水素輸送コストも低減できる。また「充填作業時間も大幅に短くなり、水素ステーションの設備も簡素化できる」そうだ。なお、液体水素の活用については同社と岩谷産業が共同研究をすすめており、「とくにサブクール液体水素充填技術の確立を通じて、日本における水素関連インフラのコスト削減に貢献していきたい」とデッペンCEO。水素モビリティや水素インフラの普及拡大について先の見通せない状況がつづくなか、こうした攻めの姿勢は頼もしいかぎりだ。
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三菱ふそうトラック・バス㈱代表取締役社長・CEOのカール・デッペン氏とFCV大型トラック「H2FC」。こちらも「スーパーグレート」がベースで、ダイムラートラックとリンデ・エンジニアリングが共同開発したsLH2充填技術を採用。この技術は液体水素をポンプで加圧しながら車両に搭載された液体水素タンクに充填するもので、 タンク内のボイルオフガス(蒸発した水素ガス)が再液化され、ボイルオフガスを排出する必要がないため、急速に充填を行えるという

二輪業界でも活発化する
水素エネルギー活用

 二輪業界も水素モビリティをモビリティーショーに出展。ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキの国内メーカー4社は水素小型モビリティ・エンジン研究組合「HySE(ハイス)」を立ち上げ水素エンジンを共同で研究し、それぞれが水素バイクの開発をすすめている。
 たとえばカワサキモータース㈱は水素エンジンを搭載した研究車「水素エンジンモーターサイクル」を展示した。「従来のガソリンエンジンと同様のエンジンの鼓動やフィーリングなどを維持しながら、カーボンフリーなバイクを実現した」(カワサキモータース㈱マーケティング部 松田加菜子氏)という。市場投入時期については「水素ステーションなどのインフラや関連法規の整備状況しだいだが、2030年代前半の実用化を目指している」そうだ。

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カワサキモータース㈱の水素エンジンモーターサイクル。エンジンのベースは同社の大型オートバイ「Ninja H2」のスーパーチャージドエンジン。これを水素燃料の筒内直接噴射仕様に変更して車体に搭載

 ヤマハ発動機㈱の水素エンジンスクーター「H2 Buddy Porter Concept」もユニークだ。これはトヨタ自動車㈱と共同開発中のコンセプトモデルで、同社技術・研究本部AM開発統括部 第2技術部水素エンジン実験グループチーフの内賀嶋瞭(うちがしま・あきら)氏によれば「水素ステーションが少ない現状でも社会実装できるよう、配達業務などかぎられたエリアで活躍する商用モビリティを想定している」という。水素エンジンの二輪車についてはまだ基準や規定が整備されていないのが現状だが、「まずは既存の水素燃料バイクの基準を念頭に実証を重ねており、タンク満充填時の航続距離は実測100㌔㍍以上を実現した」そうだ。

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ヤマハ発動機㈱の水素エンジンスクーター「H2 Buddy Porter Concept」。FCVバイクの基準を念頭に公道走行にかかわる技術要件を満たしたという

 また、自転車でも水素技術の導入がすすむ。たとえばトヨタ紡織㈱が開発した「水素アシスト自転車システム」は、燃料電池をなんと手のひらサイズに小型化して自転車に搭載し、水素タンク1本で80㌔㍍の電動アシスト機能を発揮するというからオドロキだ。現在、より手軽に水素を充填できる「水素充填装置」も開発中だという。

中小モノづくり企業が
水素モビリティ開発に挑む

 ここからはモビリティショーには出展していないが、近年の中小企業の参入事例について紹介したい。たとえば、金属切削加工を主力とする創業65年の中小企業、㈱西川精機製作所が開発したマイクロモビリティは秀逸だ。これは水素燃料電池を搭載した4輪丸ハンドルフルボディ装着の特定小型原動機付自転車で、東京都中小企業振興公社の助成金採択を受けて開発されたもの。開発の理由について同社代表取締役の西川喜久氏は、2008年のリーマン・ショック以降、「従来の下請け仕事だけでなく、産学連携で自社技術を生かした新規事業に取り組んできた」からだと話す。「次世代マイクロモビリティ」を研究する東京大学生産技術研究所の久保登特任研究員(当時)との縁がキッカケで、トヨタの超小型電気自動車「コムス」を改造したコンセプトカーを開発できたそうだ。
 その後、2023年7月に道路交通法の改正であらたに小型原動機付自転車の規格(※2)が定められたのを受け、12月からこの規格に準拠した4輪マイクロモビリティの開発に乗り出すことに。「当社は本業が金属切削加工業なので、当然のことながらイチからクルマ本体の製造を手掛けるのははじめてだった」と西川氏。だが「これまで携わった産学連携プロジェクトを通じてさまざまな機器の設計から切削加工、組み立てまで一貫して手掛ける体制を構築していたので、思い切って挑戦した」という。モーター制御などのソフト面については、以前から協力関係にあった日本大学理工学部の入江寿弘教授とともに開発に取り組み、今年4月には大手メーカー製の燃料電池を積んで試験走行を実施、諸々の調整を経て9月に4輪マイクロモビリティを完成させた。「まずはEVモデルを市場に売り出し、FCVモデルは水素関連インフラの整備状況などもみながら社会実装に向けて準備をすすめていきたい」と西川氏は話している。

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㈱西川精機製作所が開発した、水素燃料電池で動く4輪丸ハンドルフルボディ装着の特定小型原動機付自転車。シニア層の日常生活圏での利用などを想定

※2 特定小型原動機付自転車の規格……最高速度20㌔㍍/h以下・定格出力0.6㌔㍗以下・全長1.9㍍以下・全幅0.6㍍以下。

水素モビリティ普及に向けて
政府・自治体の支援策拡充へ

 このように大手から中小企業まで、大型車からマイクロモビリティまでさまざまな研究開発、実証がすすむ水素モビリティ。だが、肝心の水素ステーションなどのインフラ整備が不十分、これではメーカー各社は市場に製品を送り込めない。そこで経済産業省は今年5月に「燃料電池商用車の導入促進に関する重点地域」(東北/福島県、関東/東京都・神奈川県、中部/愛知県、近畿/兵庫県、九州/福岡県)を選定。
 今後、これらの地方公共団体内の水素ステーションでは国がディーゼルと水素の燃料費の差額に対して約700円/㌔㌘(差額の4分の3程度に相当)を追加補填するなど支援を拡充していくという。
 自治体独自の取り組みもはじまっている。たとえば東京都は水素ステーションの整備を後押しするネライで商用FCVの導入支援策を拡充、9月には官民連携で水素の需要拡大をはかる「TOKYO H2」プロジェクトもスタートし、とくにタクシー・トラック業界への燃料電池モビリティ導入を推進している。
 つぎつぎと台頭する先進的な水素モビリティ、その社会実装を加速させるためには、こうした支援策をさらに手厚くしていくべきではないか。