第24回 水素エネルギー研究会

(月刊『コロンブス』2025年10月号掲載)


2050年の県内需要7万7290㌧を
見込む福井県の水素戦略

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敦賀港でFSRU(浮体式貯蔵再ガス化設備)を利用して海外からアンモニアを受け入れ、国内の水素製造拠点からも水素の受け入れを本格化し、テクノポート福井などにおける次世代エネルギーの導入を加速させる。

脱炭素社会の実現に向けて、福井県が水素やアンモニアの供給・利用体制の確立に向けた構想を打ち出した。敦賀港を海外や国内拠点から水素・アンモニアを受け入れる一大供給基地と位置づけ、福井市と坂井市にまたがる工業団地「テクノポート福井」などでカーボンニュートラル燃料の利用を加速させていくという。さっそく、その構想の詳細を同県エネルギー環境部に聞いてみた。

敦賀港や大規模工業団地を
水素供給・利用の拠点に

 福井県といえば、多くの原子力関連施設の立地地域であり、現在、日本全国で再稼働している14基の原子力発電所のうち半数が県内にある(※)。2050年のカーボンニュートラル達成に向けて、これらの原発は県のエネルギー産業の主軸となっているが、今後、国際的な潮流や政府のエネルギー政策がどう転換するかわからないこともあり、原発だけに頼るわけにもいかない。そこで「もうひとつのあらたな軸として、次世代エネルギーの供給・利用を推進していこう」と、水素やアンモニアの利用拡大やサプライチェーン構築を目指すこととなったのだ。
  県では構想を検討するにあたって、まず県内と近隣地域の企業への聞き取り調査を実施し、その回答をもとに水素の需要がどう伸びていくかを予測した。それによると、30〜35年には約6500㌧に急増、さらに国立環境研究所のモデルを使って推計したところ、2030年頃は400㌧ほどに留まるが、2050年には7万7290㌧と約200倍にまで増加すると 試算。

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福井県と周辺地域の水素需要予測

 県エネルギー環境部エネルギー課担当者によれば「県北部にある近畿・中部エリア最大級の工業団地『テクノポート福井』を中心に10社ほどの製造業者が水素エネルギーの導入に前向きになっており、工場のボイラーやフォークリフトなどの燃料としての利用を検討している」とのこと。さらに、同工業団地の燃料は現在のところ石炭火力がメインだが、「カーボンニュートラルに向けてLNG(液化天然ガス)に切り替えようという動きがあり、これに水素を混焼させてさらなるCO₂排出削減につなげる」アイデアも持ち上がっているという。
 こうした水素の需要増に対応するため、県が2035年頃までに水素・アンモニアの一大供給基地とすることを構想しているのが日本海側の国際貿易の拠点、敦賀港(敦賀市)だ。「海外や国内各地の拠点からアンモニアを受け入れ、港に隣接する火力発電所でアンモニア混焼すればCO₂排出量を減らせる。もちろん、アンモニアから熱分解で水素を取り出して需要家のところへ運ぶこともできる」という。
 また、水電解装置で水素をつくり出して地元で利用する「地産地消エネルギーシステム」も視野に入れており「水電解装置のメーカーと連携し、水素の地産地消モデルの実現可能性を調査している」そうだ。

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万博への水素供給など
実証を重ね機運醸成

 だが今後、本当に冒頭の予測通りに水素需要が伸びていくか、いかにして水素利用の機運を高めるかが問題だ。
 テクノポート福井の製造業者が水素利用に前向きになっていることは前述の通りだが、福井県と隣接府県の約500社を対象に行ったアンケート・ヒアリング調査では、「水素・アンモニア利用に関心がある」と回答した企業は50㌫超だったものの、「35年までに利用を開始したい」企業はわずか7社。「現状、水素の製造・供給コストが高止まりしていること、安定供給がまだまだ不透明であることなどが多くの中小モノづくり企業にとっては懸念材料になっている」という。
 こうしたなか、県は「従来の化石燃料と次世代エネルギーの価格差を補填する政府の補助政策などで水素需要が伸びることを期待し、まず2026年から2029年までは地域における水素利用のモデルケースを地道に増やし、実証事業に力を入れていく」としている。
 すでに行われている実証事業としては、たとえば経済産業省資源エネルギー庁が主導する「福井県・原子力発電所の立地地域の将来像に関する共創会議」から生まれた県南西部のおおい町の取り組みがある。同町は今年3月、県内の原発でつくった電気を使って水素を製造することができる水素ステーションを町内に設置、大阪・関西万博の水素燃料電池船に燃料を供給したほか、関西電力の姫路第二火力発電所で行われた水素混焼実証にも水素を供給し、そこでつくられた電気も万博会場で使われている。
 このような実証事例を通じて県内では徐々に水素利用の機運が高まりつつあるが、構想はまだスタートしたばかり。県は「着実に実証を積み上げ、需要の掘り起こしにも取り組んでいく」としている。また「水素・アンモニアサプライチェーンを確立するのは単独の自治体では難しい。北陸3県や関西圏の自治体ともシッカリ連携していくことが重要」とも。
 北陸・関西圏のカーボンニュートラルシフトを牽引する福井県の今後の取り組みに期待したい。

※ 美浜発電所1基、大飯発電所2基、高浜発電所4基(2025年8月現在)