第15回 水素エネルギー研究会
(月刊『コロンブス』2025年1月号掲載)
原発8基分の「水力発電王国」ラオスで
グリーン水素プロジェクトがスタート!!
水素の燃焼熱で焙煎したカーボンニュートラルな
「水素コーヒー」が誕生!!
日本・ラオス政府のバックアップも得て
47歳の日本人起業家が〝水素ビジネス〟に挑む!!
ここ数年、グリーン水素の製造・活用プロジェクトに参画する自治体や企業が増えているが、その多くは実証レベルにとどまっており、「水素エネルギーはコストが高く、まだまだビジネス化は難しい」という見方が大勢を占めている。しかし、こうしたなかにあって、東南アジアのラオスでグリーン水素の製造、活用ビジネスに乗り出した起業家がいる。TSBグリーンネックス㈱の西尾龍太郎氏(47歳)その人だ。氏はグリーン水素の燃焼熱で焙煎した「水素コーヒー」を売り出す「グリーン・ハイドロジェン・バレー・プロジェクト」を日系企業など8社とともに始動、2026年半ばまでに焙煎工場を本格稼働させるという。
なぜラオス、なぜコーヒーなのか、そして現状では「コストが合わない」はずのグリーン水素で一体どんなビジネスモデルを打ち出し、どんな成長戦略を描いているのか。さっそく話を聞いてみたい。
ラオスの地域特性を生かし
独自の水素ビジネスに挑戦
西尾氏は大手商社勤務を経て、2015年から東洋タイ(TTCL、東洋エンジニアリング㈱のタイ現地法人)でミャンマー国内の発電所の開発プロジェクトに携わってきた。超大型発電プロジェクトをすすめ、2021年1月末にはその売電契約が締結されたが、直後に政変が起こり金融機関がすべての融資を引き上げ、プロジェクトは頓挫してしまう。その後、西尾氏は「どうせなら新しい場所で新しいことに挑戦しよう」とTSBグリーンネックス㈱とともにラオ・グリーン・ハイドロジェン社をラオスに設立、ラオスにおけるグリーン水素の製造、利用ビジネスを思い立ったという。あらたな挑戦の地としてラオスを選んだのは、タイやベトナムと比べてインフラの整備などが遅れており、開発のポテンシャルがまだまだ大きい国だからだ。しかも国土の7割以上が山岳・高原地帯で水力発電の適地が多く、電源別で水力が全体の8割を占めているのもラオスならではの特徴である。
前職時代から次世代エネルギーとしての水素の可能性に注目していた西尾氏は、こうした地域特性を見て「ラオス国内の水力発電所の発電能力は原子力発電所8基分。この安価で大規模な電力を使ってグリーン水素を生み出し、水素エネルギーで高付加価値な加工製品をつくって販売してみたい」と考えた。そしてまず目をつけたのが、昨今、東南アジアや台湾で大人気となり価格も高騰しているコーヒーだった。これまでもラオスでは各地でコーヒー豆の大規模生産が行われていたが、生豆のまま安価で国外に売り出すしかなかった。
焙煎して売れば生豆の2倍以上の売上が得られるが、そうした加工業が国内で育っていないのだ。そこで西尾氏は生豆をグリーン水素の燃焼熱で焙煎して売り出すことに。「コーヒー豆の焙煎には200度の熱が必要で、通常の電力ではなかなか難しい」、ならば安定して超高温の熱が出せるのは水素だ、というわけだ。焙煎過程で温暖化ガスを排出しないのはもちろん、ラオスは電気料金が日本の2割、タイの3割とかなり安いのでエネルギーコストも抑えられる。その分、「水素コーヒーのタイでの販売価格は㌔㌘あたり約10㌦程度と、一般的なものより1〜2割安く販売できる」と西尾氏。つまり水素コーヒーは環境に配慮した高付加価値で、かつ価格競争力も高い優秀な商品になるのだ。
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プロジェクトメンバーを集め
ラオス政府にも日参
西尾氏はこの「水素コーヒー」をビジネス化するために事業会社ラオ・グリーン・ハイドロジェン社を設立、そして前職からのネットワークを生かして各方面に呼び掛け、トクヤマ㈱(アルカリ水電解装置の開発を担当)、㈱TMEIC(整流器の製造を担当)といった日系企業をプロジェクトに引き入れた。
さらにラオスでコーヒー栽培・加工・輸出を行うペッサワンコーヒー合同開発とジョイントベンチャーを組織したほか、ドイツの老舗コーヒー焙煎機メーカーPROBATにアプローチして水素燃焼熱による焙煎を行ってもらうことに。また、ラオス政府にも何度も足を運んでプレゼンテーションを繰り返した。
「これまでタイやカンボジア、ベトナムなどに安価な電力を供給し〝アジアのバッテリー〞と呼ばれてきたラオスだが、このプロジェクトを通じてグリーン水素を製造し、ビジネス利用をすすめれば、独自の高度な産業を確立することができ、ラオス経済の躍進につながる」との訴えが同国マライトーン・コンマシット商工相を動かし、ラオス南部、チャムパサック県パクセー市の「パクセー・ジャパン経済特区」に焙煎工場を新設することが認められた。25年春にも着工する予定だという。
日本政府はこの特区でカーボンニュートラル工業団地を実現する考えを示しており、西尾氏が打ち出した「グリーン・ハイドロジェン・バレー・プロジェクト」は日本の経済産業省のグローバルサウス未来志向型共創等事業に採択され、助成を受ける見込みだ。
グリーンアルミニウムの
製造、販売も見据える
こうして日本、ラオス、ドイツの企業が力を合わせ、ラオス、日本両政府の後ろ盾も得て「グリーン・ハイドロジェン・バレー・プロジェクト」が動き出した。2026年半ばから焙煎工場を稼働させる予定で、年間3000㌧の「水素コーヒー」を生産し、国内外で販売していく計画だという。
そして、西尾氏はさらにその先も見据えている。水素エネルギーによる金属加工製品の生産に挑戦することを考えているのだ。ラオスは鉱石を他国に輸出しているが、これを精錬してから売れば価格が10倍に跳ね上がる。
そして「金属精製には1000度の熱が必要で、コーヒー同様に水素エネルギーのほうが電気よりはるかに効率が上がる」と西尾氏。なかでもラオスの国土の地下には60億㌧ものボーキサイトが手つかずで眠っているといわれており、ラオス政府からその開発を依頼する話もすすんでいるという。
ボーキサイトといえばアルミニウムの原材料であり、カーボンニュートラルなモノづくりが求められている今、温室効果ガスを排出せずに水素エネルギーで製造する「グリーンアルミニウム」は世界的に需要が高い。「ぜひとも水素コーヒーやグリーンアルミニウムをラオスのあらたな輸出品目にしていきたい」と西尾氏は意気込んでいる。
ただ、水素コーヒーの製造、販売についてはビジネス化の目途が立っているが、金属製品については大きな課題がある。山岳地帯であるため物流が整っていないのだ。コーヒー豆ならトラックや大型のエンジンドローンなどで運べるが「金属製品となると列車輸送でないと厳しい。現状ではラオス・タイ国境までは鉄道があるが、これを延伸するには周辺諸国との国際的な連携も必要となる」と西尾氏。安価な「グリーンアルミニウム」を輸出できることはラオスにとって、経済安全保障上も大きな強みとなる。その強みをうまく打ち出せば国際連携による鉄道延伸も不可能ではない。東南アジアの小国が「グリーン・ハイドロジェン・バレー・プロジェクト」でどのように発展していくか、またそこから水素ビジネスの可能性がどのように広がっていくか、今後の展開から目がはなせない。