第13回 水素エネルギー研究会

(月刊『コロンブス』2024年11月号掲載)


清水建設が産総研と共同で「金属の体積の1000倍もの
水素を吸蔵する」水素吸蔵合金を活用した

「Hydro Q-BiC」で建物や
地域の〝地産地消エネ〟を実現!!

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「Hydro Q-BiC」による水素サプライチェーンのイメージ。市街地を中心にCO₂フリー水素の地産地消エリアを想定し、郊外のメガソーラーで水素を製造しエリア街区に輸送する構想

余剰電力を水素で生かす

太陽光発電や風力発電などは気象条件や季節によって発電量が大きく変動するため、どうしても電力供給量が需要を上回って余剰電力が発生したり、逆に発電量が足りず需要をまかなえなくなったりする。
そこで、地域における〝エネルギーの地産地消〞に向けて再生可能エネルギーを導入するには、何らかの形で余剰電力を貯めておく仕組みが必要となる。
こうした課題を解消しようと、大手ゼネコンの清水建設㈱(東京都中央区)が国立研究開発法人産業技術総合研究所(以後、産総研)とともに開発したのが水素エネルギー利用システム「Hydro Q-BiC」だ。同社のNOVAREイノベーションセンター ハイドロジェングループ コンダクターの下田英介氏(45歳)によれば、これは「再生可能エネルギーの余剰電力で水を電気分解して水素を製造、貯蔵し、必要なときにその水素を取り出して発電するシステム」。小規模な建物で短期間、電気を貯めるなら蓄電池が適しているが、「大きな建物や建物群の場合、エネルギーの貯蔵期間が数カ月間や年単位など長期に及ぶ場合には巨大な蓄電池が必要となってしまうため、水素に換えて貯蔵したほうが圧倒的にコンパクトで効率がいい」という。

ただ、水素をどのようにして貯蔵するか、これが問題となる。燃料電池車(FCV)への充填用に水素ステーションで貯蔵されている軽量な圧縮水素を建築物で扱うとなると、有資格者が必要だったり、建物からはなれたところで保管したりと、消防法や高圧ガス保安法などの規定を満たさねばならずハードルが高い。そこで、同社では「水素吸蔵合金」と呼ばれる金属に水素を吸蔵して貯める方法をとることに。水素吸蔵合金を使うデメリットは金属なので重いことだが、建築物で利用する場合、重さは問題にならないし「金属の体積の1000倍もの水素を吸蔵できるため、圧縮水素や液化水素よりもさらにコンパクトに貯蔵することができる」のだ。
が、従来の水素吸蔵合金は粉末が細かいため、着火の恐れがあるのがネックだった。保安上、そのままでは使えないので、不燃化するために処理をする必要があるという。そこで同社は、産総研とともに「細かくなりにくく着火しないので、特別な処理をする必要がない」合金を開発した。そして、このあらたな水素吸蔵合金を取り入れた水素エネルギー利用システムを構想し「Hydro Q-BiC」を確立。「まずは建築物内で完結するシステムをつくろう」ということで、これまでさまざまな実証実験を重ねてきた。

各地で重ねてきた実証・実装

「Hydro Q-BiC」の最初の実証の舞台は福島県の郡山市総合地方卸売市場だった。
敷地内の一角に太陽光発電パネルと水素プラント(水素製造装置と水素吸蔵合金による貯蔵装置、発電のための燃料電池、蓄電池から成る)を設置し、深夜から翌昼までの時間帯にグリーン水素による電力を供給する実証を2019年から2年間にわたって行ったという。
その検証結果はというと「太陽光発電システムによって従来から4割のCO₂を削減できたのに加えて、市場が稼働しない昼間の余剰電力を水素に換えて貯蔵、稼働時間帯に活用することでさらに約13㌫もCO₂削減を上積みできた」そうだ。

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福島県郡山市総合地方卸売市場で2019年から2年間にわたって行った水素プラント実証の設備
その後、2021年には同社北陸支店(石川県金沢市)の社屋建て替えに合わせて、建物内の機械室に「Hydro Q-BiC」を実装した。
「休日の余剰電力を水素に換えて平日に発電して活用しているほか、北陸地方の特徴として冬場は積雪で太陽光による発電量が極端に少なくなるので、夏場の余剰電力を水素に換えて貯蔵し、冬場に電力として活用するエネルギーシフトを実施、それで現在に至るまで社屋におけるエネルギーの平準化を行っている」という。
まさにカーボンニュートラルエネルギーの地産地消モデル、「燃料として水素を蓄えておけば、停電時などのBCP電源として活用できる」のも大きなメリットだ。
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「Hydro Q-BiC」のシステム構成(清水建設北陸支店新社屋(2021年5月竣工)の例)
さらに、同社ではこうした建物内で完結する水素エネルギー利用システムの実装だけでなく、「郊外のメガソーラーで発電した電力で大量の水素を製造し、それを都市部まで運んできて水素吸蔵合金で保管することで、地域全体での水素サプライチェーンを確立する」といった未来を見据えた実証にも乗り出している。

同社が2023年9月に新設したイノベーション拠点「温故創新の森 NOVARE(ノヴァーレ)」(東京都江東区)における取り組みがそれだ。この拠点には「ノヴァーレハブ」「技術研究所潮見ラボ」「ものづくり至誠塾」「清水建設歴史資料館」「旧渋沢邸」の計5棟の建物があり、そのうち1棟に設置された太陽光発電システムの電気エネルギーを各棟に融通している。
これに加えて、さまざまな次世代エネルギー研究に取り組む山梨県(月刊『コロンブス』2024年5、6月号参照)から水素を購入、NOVAREまで運搬し水素吸蔵合金で保管、活用する試みもすすめているとのこと。
「試算では1日1回、300立法㍍ほどの水素を運んでくれば、太陽光発電との併用でNOVAREを完全にカーボンニュートラルエネルギーで運用できる」と下田氏。現在のところ、月1回の頻度で実験的に水素を運んできているそうだ。
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北陸支店新社屋の水素蓄電室や水素吸蔵合金タンク

水素利用システムの普及へ

このように実績を重ねてきたおかげもあって「Hydro Q-BiC」の注目度は高まっており、各業界から問い合わせがきているという。
だが、やはり課題となってるのが導入コストが高いことだ。そこで「まずは小規模に水素エネルギーを取り入れてみたい」という声に応えるために、同社ではより小規模で導入コストの低い「Hydro Q-BiC Lite」を打ち出し、PRに努めている。
これは40フィートのコンテナ(長さ12〜13㍍、横3㍍弱)に水素製造装置から燃料電池までをワンパッケージで収めた商品で「企業の社屋や工場のほか、郊外のコンビニエンスストアなどにも適したサイズ感と発電量」だという。それでも高額だが、たとえば東京都では「グリーン水素製造・利用の実機実装」のワンパッケージモデルに10分の10、上限2億5300万円の補助金を出している。
こうした補助金を活用すれば導入しやすくなる。
「カーボンニュートラルやBCP対策に向けた企業のニーズは高まっているので、補助金を活用して水素利用に取り組んでみたいと考えている企業に積極的にアプローチしていきたい」と下田氏は話す。
カーボンニュートラルはあらゆる企業にとって喫緊の課題。
「Hydro Q-BiC Lite」の普及で水素関連産業が成長し、その裾野が各種の機器や部品の製造・供給などを担う中堅・中小企業にまで広がっていくことを期待したい。

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北陸支店新社屋の水素蓄電室や水素吸蔵合金タンク