第8回 水素エネルギー研究会
(月刊『コロンブス』2024年6月号掲載)
「米倉山次世代エネルギーPR施設きらっと」が
リニューアルオープン!!
山梨県の次世代エネルギー研究開発拠点
米倉山にあらたな「産業観光」を立ち上げる!!
リニューアルした「きらっと」で次世代エネルギーを学ぶ
前号で詳しく紹介した通り、山梨県は半世紀以上にわたる再生可能エネルギー事業の蓄積を持ち、再生可能エネルギーからグリーン水素をつくる「やまなしモデルP2Gシステム」などの技術開発と事業化に力を注いできた。だが、「山梨県が長年、電気事業に取り組み、その売電の利益で次世代エネルギー研究をすすめていることは地元でもあまり知られておらず、PR不足が課題となっている」と山梨県企業局の技監、功刀稔永(くぬぎ・としなが)氏は話す。そこで、県は米倉山電力貯蔵技術研究サイトにあった太陽光発電所のPR施設「ゆめソーラー館やまなし」をリニューアルし、これまで以上に情報発信に力を入れ、さらには積極的に教育にも活用してもらい、企業視察などの受け入れも強化していこうということになったそうだ。リニューアルにあたっては「社会的にカーボンニュートラルがクローズアップされ、再生可能エネルギーや水素エネルギーについて知りたいと思っている人が増えているので、そうしたニーズに応えられるよう具体的でわかりやすい展示を心掛けた」と同局新エネルギーシステム推進課の長田直樹氏。また「地元の高校生などが次世代エネルギーに興味を持ち、学ぶキッカケとなるような場を目指した」という。こうして、今年4月4日にリニューアルオープンしたのが「米倉山次世代エネルギーPR施設きらっと」だ。
さっそく、その展示内容を紹介したい。まず施設の入口には「これ! 何の数字?」という問いが掲げられ、「エネルギーの…1.3倍」「自給率13.4%」「発電電力量の…244%」とさまざまな数字が記されたアクリルパネルが並んでいる。これらの数字を横目に最初のフロアに入ると、大きな壁面にその答えが。「世界のエネルギー消費量は2040年には14年と比べて1.3倍の消費量になると予測されている」「日本は中国、アメリカ、インド、ロシアについでエネルギーの大量消費国だが、国内でまかなえるエネルギーの自給率はわずか13.4㌫と低く、エネルギー資源のほとんどを海外からの輸入に頼っている」「1990年を基準(100㌫)とした2022年までの発電電力量の伸び率の世界平均は244㌫」といった具合に、地球温暖化や世界と日本のエネルギーをめぐる現状や将来予測が詳しく、わかりやすく解説されているのだ。
「この数字は何だろう、と素朴に疑問を持つことから学びに入ってもらえれば、という意図でこのような仕掛けにした」と長田氏。また、壁面パネルの対面では、環境問題や山梨県の電力事業、次世代エネルギー研究などをテーマにした動画が高さ2㍍、幅6㍍の大型ビジョンで流れている。そしてつぎのフロアには、インタラクティブ(双方向・対話的)に学習できるタッチパネルが埋め込まれたテーブルや講師台が。ここではチョッとした授業やセミナー、勉強会などを行えるようになっているほか、次世代エネルギー研究の最前線を体感できる模型も設置されている。
これらのなかでも目玉となっているのが前出の「やまなしモデルP2Gシステム」関連の展示だ。P2Gシステムとは、太陽光や風力などの再生可能エネルギーによる電力で水道水を電気分解してカーボンフリーのグリーン水素をつくり出し、貯蔵するシステムのこと。その後、貯蔵した水素と酸素を化学反応させてふたたび電気をつくりだす。この仕組みであれば、気象条件で発電量が変動する太陽光や風力とは違い、安定した「エネルギーの地産地消」が可能となるのだ。
「きらっと」には、このやまなしモデルP2Gシステムを実演する模型がある。この模型の仕組みはつぎの通り。まず①LED照明のスイッチを入れると太陽光パネルが発電し、②電気が水電解装置を動かし水を水素と酸素に分解する。それから③水素と酸素がそれぞれ模型中央の細長い筒に貯蔵される。そして④この水素と酸素の化学反応で燃料電池が発電し、⑤その電気で風車が回る、というもの。
先の大ビジョンで関連設備の見学体験映像を見たうえでこの模型で仕組みを学べば、「やまなしモデルP2Gシステム」のことが実によくわかる。
「やまなしP2Gシステム」実証施設を見学
今回の取材では「きらっと」のみならず、すぐ近くにある米倉山電力貯蔵技術研究サイトの「やまなしP2Gシステム」実証施設も見学させてもらった。建物内には水電解装置が3基設置されており、ここで純水から水素と酸素がつくられる。案内してくれた県企業局技監の功刀氏によれば、3基あわせて1500㌔㍗で1時間に製造できる水素は360〜370立法㌔㍍。「一般家庭の消費電力5カ月分に相当する1500㌔㍗時の電力を水素として貯める計算になる」という。電気分解された水素と酸素は、メタルハイドライドタンクに貯蔵される。「メタルハイドライドは水素を吸収したり、放出したりする性質を持つ合金で、理論的には水素を液体水素と同程度の密度で貯蔵できる注目の水素貯蔵材料。この合金に水素を吸着させることで3500立法㌔㍍もの水素を安全な固体の状態で貯蔵できる」そうだ。建物の裏手には、製造・貯蔵された水素を出荷するための各種設備がある。「P2Gシステムで製造される水素はいったん8気圧ほどの圧力で送り出されるが、トレーラーやカードル(水素ボンベ)に充填する際はコンプレッサーで水深2000㍍の深海と同じ200気圧まで圧縮して効率的に輸送する」と功刀氏。「トレーラーは空の状態から7〜8時間、カードルは1時間程度で満タンにでき、水素ステーションや事業所に輸送される」という。
このP2Gシステムのほかにも、米倉山電力貯蔵技術研究サイトにはハイブリッド水素電池システムなど、電力貯蔵をテーマとしたさまざまな研究・実証施設が立ち並んでいるほか、米倉山次世代エネルギーシステム研究開発ビレッジ「Nesrad(ネスラド)」もある。これは山梨県営の入居型研究棟で、現在9社の企業・研究機関が拠点を置き、次世代エネルギーシステムの研究開発に取り組んでいる。この研究環境が話題になり、「国内外の企業・研究機関からの視察希望が多く、人材育成のためのセミナーや企業支援の場としても活用の機会が増えている」という。
このように米倉山はまさに次世代エネルギー研究の一大拠点であり、最前線だ。が、JR甲府駅などからのアクセスが不便(※)であること、また一般の人はPR施設「きらっと」しか入館できないといった難点も。いずれは観光バスを使って専門家によるガイドツアーを行うのも一案ではないか。そうなれば、「きらっと」やP2Gシステム関連設備、研究ビレッジなどをかなりディープに見学できるようになる。「きらっと」のすぐ裏手には研究施設や山梨の山並みを見渡せる展望台もあり、山梨県の自然を感じながら次世代エネルギーを学べる。ぜひとも山梨県独自の先端の産業観光を立ち上げてほしい。次世代エネルギーで地域の活性化をはかる、それこそが「失われた30年」を取り戻す方法だ。
※ JR甲府駅からシャトルバスが運行してはいるが、これは研究ビレッジの入居企業の従業員や研究者向けのものであり、路線バス、観光バスはない。県では今後、駅からの観光用バスの運行なども検討するという。