第5回 水素エネルギー研究会
(月刊『コロンブス』2024年3月号掲載)
2050年には日本の水素需要7000万㌧!!
いかに水素社会と水素産業を確立するか!?
水素バリューチェーン推進協議会が描く
水素需要増と地産地消型の水素拠点構想
水素研究で先行しながらも社会実装に踏み切れない日本
2010年代、日本は水素エネルギーの導入に向けた取り組みで世界各国に先行していた。09年には家庭用燃料電池コジェネレーションシステム(エネファーム)が国内で一般発売され、14年にはトヨタ自動車が世界初の燃料電池車(FCV)の市販車「MIRAI」を発売、水素ステーションなどのインフラ整備もすすめられてきた。政府としても早い段階からエネルギー基本計画のなかで水素を重視し、17年12月には世界初の「水素基本戦略」を閣議決定、水素を「エネルギー安全保障と温暖化対策の切り札」と位置づけ、30年頃までに商用の水素サプライチェーンの構築を目指すとした。
だがその後、水素の利用コストは依然として高止まりしつづけ、水素エネルギーの社会実装がなかなかすすまなかった。そうこうしているうち、数年前から欧米を中心に水素の国家戦略が策定され、社会実装に向けた国家プロジェクトがすすむなど、世界各国で水素製造・調達・利用の取り組みが本格化。そのなかで日本政府は23年5月に水素基本戦略を改定し、あらためて水素社会の実現と水素産業の確立を目指して15 年間で官民15兆円の投資を行っていく方針を掲げた。
地産地消型の水素拠点を各地に
こうした動きの一環で立ち上げられたのが(一社)水素バリューチェーン推進協議会(JH2A)だ。「水素エネルギーの社会実装をすすめるには、民間各社が協力してそれぞれの高度な水素関連技術を組み合わせる必要がある。そのプラットフォームとして協議会を設立した」と話すのは、岩谷産業㈱専務執行役員で同協議会の事務局長を務める福島洋氏(61歳)。JH2Aが水素社会の確立に向けて課題として掲げているのは「水素の需要創出」と「技術革新によるコスト削減」、そして「事業者に対する資金供給」の3点。まず需要については、政府は「グリーン成長戦略」のなかで50年までに2000万㌧の需要を創出することを目標として掲げている。だが、JH2Aで独自に水素の潜在需要を推計したところ、「産業熱(工業炉・ボイラーなどの)や発電、輸送機器などにおける利用拡大を前提とすれば、約7000万㌧の需要増を見込めることがわかった」という(図参照)。
では、この潜在的な水素需要をいかに顕在化させていけばよいのか。いうまでもなく、技術革新によって水素の利用コストを下げることだ。現状では1Nm3(※)当たり100円前後となっており、これでは高すぎて事業者が利用できない。政府は水素基本戦略のなかでこれを30年までに30円、50年までに20円にすることを目標としている。この数字を達成するうえで1番のネックになっているのが水素を製造する際にかかる電気代だ。水素の製造過程でCO₂を排出してしまっては元も子もないので、再生可能エネルギーで電気分解せねばならないが、日本は国土が狭いため大規模に太陽光発電や風力発電を行うことができない。だから、「発電コストが低い海外に再生可能エネルギー発電の拠点をつくり、そこで水素を製造し海路で運搬する」という方法がもっとも現実的とされている。事実、岸田文雄首相は昨夏、サウジアラビアを訪問し、水素やアンモニアといった新エネルギーの分野で連携を強める方針を示した。
が、当然のことながらこの方法でも海上輸送コストが大きな障壁となってしまう。そこで、前出の福島氏が提案するのが「地産地消型の水素産業」だ。各地域で域内の需要に応じた再生可能エネルギーによる発電の仕組みを整えたうえで、その余剰電力で水素を製造し、パイプラインで地元事業者や地元住民の元に供給する。「こうした地産地消型の水素製造・利用の拠点エリアをつくり、各地域における水素需要を高めることで利用コストを下げていくことが重要ではないか」と福島氏。たとえば、北九州市では響灘臨海部を中核として、まさにこの地産地消型の水素拠点化計画がすすみ、同時に海外から安価に水素を輸入する仕組みも検討している(前号参照)。また、山梨県では太陽光発電で余った電気を有効活用して高効率に水素を製造する装置の開発・普及に取り組んでいる。JH2Aではこうした地域におけるプロジェクトの事例を全国に発信するため、環境省とともに「自治体水素アワード」を開催し、協議会の会員自治体の優れた取り組みを表彰している。当日は「企業と自治体の交流や意見交換の場ともなっている」そうだ。
※ Nm3(ノルマルリューベ)……標準状態(大気圧、0℃)における空気の量(体積)。