第4回 水素エネルギー研究会

(月刊『コロンブス』2024年2月号掲載)


八幡東区・東田地区での水素パイプラインによる
市街地への水素供給、響灘臨海部での
CO₂フリー水素製造・供給など
水素エネルギー実証事業をつぎつぎと実施

「水素社会確立の牽引役、北九州市が
「水素サプライチェーン」構築を目指す!!

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水素供給・利活用拠点の中心地となることを目指す響灘臨海部。広大な埋め立て地に太陽光、風力、バイオマスなどの再生可能エネルギー発電施設が集積しており、計画中のものも含めて約660MWの設備容量を有する

モノづくり産業集積地ならではの課題に挑む

北九州市は1901年の官営八幡製鉄所(現・日本製鉄)の創業以来、モノづくりの街として日本の近代化を支えてきた。
現在もなお鉄鋼、化学、セメント、窯業、自動車などのモノづくり産業が主力だが、その一方でこれらの産業部門からの温室効果ガス排出量の多さが課題に。事実、日本全体の排出量に占める産業部門の割合が31㌫なのに対し、北九州市では実に60㌫を産業部門が占めている。
モノづくり現場における脱炭素化が急務なのだ。

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北九州市の温室効果ガス排出量(部門別割合)

そこで市は21年、2050年ゼロカーボンシティの実現に向けて「北九州市地球温暖化対策実行計画」を改定、さらに23年にはそのアクションプランとして「北九州市グリーン成長戦略」を打ち出した。
市環境局グリーン成長推進部グリーン成長推進課の水素戦略係長、福田武日児氏によれば、この戦略では「環境と経済の好循環によるグリーン成長」を掲げ、「再生可能エネルギーによる電力部門の脱炭素化をすすめつつ、高温の熱需要や長距離輸送など、とくに電化が困難な分野の脱炭素化において水素をエネルギー源として積極的に活用していく」とのこと。
具体的な目標としては「30年度までに太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー導入量を現在の約3倍にあたる1400MW導入し、政令市トップレベルを目指すとともに、これらの再エネ導入や水素の供給・利活用などによって約5900〜6800億円の直接投資、約93万㌧のCO₂削減効果を見込んでいる」という。


水素エネルギーの社会実装に向けた実証事業を展開

こうした方針を掲げる前から、同市は水素エネルギーの社会実装を目指すさまざま実証事業を行ってきた。
その筆頭が水素パイプラインを活用した八幡東区・東田地区での技術実証(「北九州水素タウン」実証事業)だ。
日本製鉄の製鉄所から市街地の水素燃料電池実証住宅などに1.2㌔㍍の水素パイプラインで水素を供給し、この水素パイプラインを企業や大学に実証フィールドとして提供、水素関連製品などの開発・実証を支援している。
この十数年で10の実証事業が実施され、県内外の12社が参加した。たとえば福岡県大牟田市の矢部川電気工業㈱は、パイプラインに接続して24時間リアルタイムにパイプ内の不純物を計測する装置を開発。福岡市の九州計測器㈱はパイプラインからのガス漏れを検知し管理者にアラートを送るセンサーを開発、実証を行った。
そして現在、家庭用給湯器として世界初の水素100㌫燃焼給湯器の実証を岩谷産業㈱(大阪市)とリンナイ㈱(愛知県名古屋市)がすすめている。
関係者によれば「水素燃料電池実証住宅にこの給湯器を設置し、台所と風呂、洗面所に給湯している。実生活で使ってもらうことで性能評価や長期運転による信頼性評価を行うのが目的」だという。

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2010年に世界ではじめて1.2㌔㍍の水素パイプラインを街中に敷設。社会インフラとしての保安面を検証する意味でも注目を集めており、国内外からの視察も多い
また、20年度から22年度にかけては響灘臨海部で環境省による「CO₂フリー水素製造・供給実証」が行われた。この実証では、地域の再生可能エネルギーを活用し、どのように水素を「つくり」「はこび」「つかう」サプライチェーンを低コストで構築できるかを模索。
実施体制としては、福岡県と北九州市がプロジェクト全体の調整をし、㈱北九州パワーが代表事業者として風力・太陽光・バイオマス発電で再生可能エネルギーを調達、㈱IHIが水素製造、福岡酸素㈱が水素圧縮・輸送と水素ステーションでの水素利用、ENEOS㈱が水素パイプラインへの供給と水素ステーションでの水素利用を担った。

水素供給・利活用拠点の形成へ

こうした方針を掲げる前から、同市は水素エネルギーの社会実装を目指すさまざま実証事業を行ってきた。
こうした実証を経て今、北九州市では響灘臨海部を中核とした水素供給・利活用拠点の形成と、水素サプライチェーンの構築に向けた動きが本格化している。福岡県と北九州市が連携して産学官約30社・機関からなる「福岡県水素拠点化推進協議会」を設立、水素拠点化計画の策定をすすめ、水素の利活用と製造・供給インフラの整備を検討しているのだ。
「響灘地区にはすでに再生可能エネルギーによる発電施設が集積しており、さらに25年度中には洋上風力発電も稼働するので、製造工程でCO₂を排出しない『グリーン水素』製造の電力としても活用できる」と前出の水素戦略係長の福田氏。
また、海外から安価に水素を輸入する仕組みについても検討をすすめている。
もちろん、同協議会に加わっている地場企業もこうした動きには積極的に加わっている。
福田氏によれば「欧米を中心に炭素税の導入やCO2排出に関する規制の厳格化がすすむなかにあって、製品を海外に輸出している地場企業は『もはや脱炭素化をはからないとモノづくり産業は生き残れない』という危機意識を持っている」と。
この危機意識の下、行政と民間、研究機関などが一体となって水素社会の確立に向けて取り組んでいるのだ。さらに市は燃料電池車(FCV)や水素ステーションの普及にも取り組んでいる。現在、市内に水素ステーションは2カ所。「北九州市はモノづくり産業の集積地であるとともに、空港、港湾、高速道路などを備えた物流の拠点でもあるため、いずれはFCVトラックの導入・普及にも力を入れていきたい」と福田氏は話している。
現在、何より大きな課題は水素エネルギーはコストがまだまだ高くつくということだ。今後、地場企業が水素エネルギーを活用するハードルを下げていかねばならない。
「政府は水素とアンモニアの商用サプライチェーン(供給網)構築に向けた支援策として、今後10年で国内に8カ所程度の産業集積拠点を設け、インフラ設置などを支援していくとしている。
何としてもこの拠点のひとつとなって関連産業の育成と誘致を加速し、水素を安価に供給できる体制を整えたい」と福田氏。水素が安価に供給できれば需要が増え、需要が増えればより価格が下がり、さらなる水素エネルギーの普及につながっていく。その好循環をつくり出すことが肝心だ。
水素を「つくり」「はこび」「つかう」サプライチェーンの一大拠点化を目指す北九州市。日本における水素社会確立の牽引役としての今後の展開に大いに期待したい。

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響灘臨海部を中心として大規模水素拠点の形成を目指す北九州市

モノづくり産業の集積地、「北九州市」

面積:488 平方㌔㍍
人口:91 万7524人(2023年4月時点)
主要産業:鉄鋼、化学、セメント、窯業、自動車など
1901年の官営八幡製鉄所操業以来、モノづくりの街として日本の近代化を支えてきた歴史を持つ地域で、63年に5市(門司・若松・小倉・八幡・戸畑)の対等合併により北九州市が発足。高度経済成長期には甚大な公害が発生したが、市民主導の産学官民連携でこれを克服、2001年からは工場移転後の製鉄所跡地で「環境」をテーマとしたまちづくりが展開されている。