第3回 水素エネルギー研究会

(月刊『コロンブス』2024年1月号掲載)


F1でCN燃料の研究開発が加速!!

CN燃料で内燃機関を動かす
時代を見据えるモノづくり企業の底力

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㈱小金井精機製作所は埼玉県入間市(狭山台第一・第二工場)と群馬県棒東村(前橋工場、棒名工場)に計4カ所、約9000坪の製造拠点を有している。写真は前橋工場の様子。大型5軸マシニングセンターなど、エンジン主要部品の高精細加工に最適な先端設備が多数揃っている

F1のほか、国内のカーレースでもCN燃料の研究開発がすすむ

カーボンニュートラル(CN)を見据えた次世代モビリティの世界的潮流といえば、これまでは「EVへの転換」が主流で、「EV化がすすめば従来のガソリンエンジン車に必要だった約3万点の部品が1万点にまで減り、関連産業が縮小してしまう」と不安の声も上がっている。
だが今、この流れが変わりつつある。牽引役はF1業界だ。2026年からF1のパワーユニットに関するレギュレーションが大きく変更され、エンジンで使う燃料を100㌫CN燃料にすることが義務づけられる。 これを受けてF1カーメーカーはそれぞれ石油メジャーとタッグを組み、26年に向けてCN燃料の研究開発をすすめている。では、こうした動きの進展状況はどうなっているのか。『CAR GRAPHIC』編集記者でEV担当の別宮賢治氏(28歳)によれば「F1にかぎらず国内のレースでもCN燃料が広がりはじめている」という。たとえばAUTOBACS SUPER GTは、30年までにシリーズ全体のCO₂排出量半減を目指した環境対応ロードマップ『SUPER GT Green Project 2030』を22年に発表し、カーボンニュートラルを推進。
23年夏のENEOSスーパー耐久シリーズには、トヨタが水素を燃料とした「水素エンジンカローラ」とCN燃料による「GR86」で参戦した。
ただ、「実際のところCN燃料の活用はまだ模索段階」と別宮氏。二酸化炭素(CO₂)と水素(H₂)を原材料とする『e-fuel(イーフュエル)』が次世代の石油代替燃料としてもっとも期待されているが、「現時点では化石燃料よりパフォーマンスが落ちる場合が多く、導入コストも高い」ことが課題になっている。とはいえ、極限の条件下で行われるF1は「走る実験室」ともいわれるほど、最高の先端技術の実験場。「既存の内燃機関のパフォーマンスを最大限引き出せるe-fuelの研究開発が一気にすすみ、その技術が社会実装されていくことに期待したい」と別宮氏は話している。実際、一度は撤退をきめたホンダが26年からF1に復帰するのも、ドイツのアウディAGが26年からのF1参戦を表明したのも「CN燃料や電動化技術との組み合わせ(ハイブリッド)の研究で世界のライバルに後れを取るわけにはいかない」という経営判断が大きな要因となったのではないか。
F1におけるCN燃料100㌫は目前に迫っており、24年からはカーメーカー各社からさまざまな研究成果が上がってくると思われるので、今後もその動向をウォッチしていきたい。

自動車産業の未来を見据えるモノづくり企業

EV一辺倒からマルチソリューションへ。そして、CN燃料で内燃機関を動かす時代へ。その未来を念頭に置けば、現在、内燃機関産業に携わっている多くの自動車部品メーカーなどは、市場縮小を恐れるのではなく、これまで以上に技術力・提案力を高めて活躍の場を広げていくべきではないか。そうした意気込みで技術革新に挑む企業がある。紹介するのは高性能エンジン部品の試作・加工におけるトップランナーである㈱小金井精機製作所(埼玉県入間市)。同社はF1やインディカー・シリーズなどのマシンのエンジン部品を高度な精密加工技術で仕上げ、世界のトップ企業に提供している。創業は1943年、小型機械の部品加工メーカーとしての出発だった。55年に本田技研工業㈱の二輪車部品の加工を受注したことが転機となり、マシニング・精密機械加工の道へ。現会長の鴨下礼二郎氏(85歳)によれば「本田宗一郎さんからご指導を受けたほか、1966年に規定が変わったF1エンジン設計の責任者に抜擢され、ホンダ・RA273用の3000㏄・V12エンジンを設計した入交昭一郎さん(カコミ記事参照)をはじめとする技術者の方々とタッグを組んで、レース・エンジン部品を数多く手掛けた」という。
そして現在では海外のトップメーカーに認められ、各社のF1用重要部品の製造を担うまでに。その技術力の核にはどんな哲学があるのか。「設計通り、要望通りに部品を製造する。当社はそれだけを真面目につづけてきた」と鴨下祐介社長(54歳)。「設計通り、要望通り」、これが難しい。何しろ、求められているのは寸分の誤差も許されないレース・エンジン部品である。「軽い」「強い」「剛性がある」といった3要素のせめぎ合いのなかでバランスの良い着地点を探らねばならないし、クライアントの研究開発しだいでは急な仕様変更もあり得る。だから同社では「世界最先端の精密加工機械をつねに揃えているのはもちろん、長年のノウハウを生かし、かぎられた納期のなかで思い通りの素材を調達し、複数の加工工程を適切に組み合わせることであらゆるニーズに応えている」という。

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㈱小金井精機製作所の鴨下礼二郎会長と祐介社長

さらに同社はF1レース・エンジン向けの部品だけでなく、次世代電動自動車や次世代オートバイ、航空機ジェットエンジン部品など、さまざまな精密機械加工分野の第一線で幅広く活躍している。
「モノづくりに対して妥協を許さない姿勢が国内外で高く評価されている」と鴨下社長は胸を張る。こうした自信は全社的に共有されている。ただの下請け仕事ではなく、「最先端のエンジンの製造の一翼を担っている」という自負、これが社員全員の何よりのモチベーションになっているのだ。たしかに、時代はカーボンニュートラルを目指している。マーケットではEV(電気自動車)が話題になっているが、蓄電池の重量や走行距離、電力確保などにさまざまな問題をえている。
待ったなしの地球温暖化にあって、化石燃料を使っての電源確保も問題外。用途によってEVとエンジン車を使い分ける時代がやってくるのではないか。いずれにせよ、カーボンニュートラルを目指す動きのなかで従来の自動車産業が変革を迫られていることに変わりはない。内燃機関産業に携わるモノづくり企業には、ぜひとも小金井精機製作所のような気概と誇りを持ち、次世代を見据え技術の研鑽に励んでほしいものだ。